2012年2月23日木曜日

どのように流す水は地質学に関連しています

「地学」見直そう 防災教育の視点から 新指導要領にらみ、教師ら論議 中高校での学び拡充へ / こどもふれあい広場 / 西日本新聞

 東日本大震災や霧島連山・新燃岳(しんもえだけ)の噴火、甚大な被害をもたらした台風12号など、全国で自然災害が相次いでいる。そんな中、防災教育の視点から、地震や火山などの地球メカニズムを学ぶ「地学教育」を見直す機運が高まっている。しかし、高校では大学入試の受験教科とも絡み、生徒たちの学習機会は乏しく、中学校で地学の学びを終える生徒も少なくない。中高校では来年度以降、理数強化を柱にした新学習指導要領が順次導入されることもあり、教師たちは地学教育の意義やあり方を問い直そうとしている。

 「日本列島はぶつかり合う4枚のプレートの上にあり、特に太平洋プレートは1年で約10センチも動く。日本が世界有数の火山国で、地震も多発する理由です」

 8月下旬、福岡県宗像市の県立宗像高。地学を担当する堺彰教諭(58)は2年生約40人に、地震や火山活動などの現象に絡む「プレートテクトニクス理論」について説明した後、生徒にこんな問い掛けをした。

 「東日本大震災と違って、福岡沖地震では津波が起きなかった。なぜだろう」。6年前に地元で起きた福岡沖地震とも比較しながら、東日本大震災について考えてもらいたかった。

 「S波だから?」。生徒の1人が自信なさそうに答えた。地震波の違いを指摘した解答だった。だが、S波はP波より少し遅れて伝わる主要動の始まりで、津波との関係はない。


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 堺教諭は、福岡沖地震は断層の横ずれ、東日本大震災は沈み込んだプレートの反動によって起きたことを説明。「津波は海底の隆起によって発生する」と教えた。福岡沖地震は警固断層が原因となったが、堺教諭が「この学校付近にも西山断層がある」と補足すると、生徒たちは驚いた。

 授業を受けた井上優里さん(17)は「震災で人間は自然に勝てないことが分かった」。東日本大震災を機に、生徒たちの地学への関心は徐々にではあるが高まっているようだ。

 □ □

 しかし、県教委などによると、福岡県の公立高校で地学を学べるのは11校しかないという。しかも、実際に授業をしているのは、このうち宗像高など4校。九州各県を調べると、熊本と鹿児島以外は同様の傾向にある。

 地学の学習機会が他の理科3科目(物理、化学、生物)に比べて少ないのはなぜか。大学入試を原因に挙げる意見が目立つ。「理系学部の2次試験を地学で受験できる大学が少ない」(福岡市教委)。高校で地学を学ぶのは、文系志望でセンター試験を受ける生徒がほとんどという。

 一方、大学側はそれほど問題視していない。九州大学理学研究院の関谷実教授(惑星形成理論)は「地学の遅れは大学4年間で取り戻せる」と言う。

 ただ、「高校段階で理科科目を選択するのは時期尚早だ。興味を持つ前に、学ぶ機会が失われる」とも話し、理科4科目の必修化を望んでいる。


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 地学を選択する生徒の低迷は、教員採用にも影響を及ぼしている。理科の教員免許があれば全4科目を教えられるが、採用は専門科目別になる自治体が少なくない。福岡県は1984年度以降、地学枠で専門教諭を採用していない。長崎県は2004年度、宮崎県は05年度以降、採用ゼロが続いているという。

 宗像高の堺教諭は「生徒の興味を喚起するような授業は、専門教諭の方がやりやすいはずだ」と言う。

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 そんな中、新学習指導要領に基づき、高校では来年度から数学と理科の学習が強化され、地学教育の実践にも追い風となりそうだ。

 新要領導入に伴い、卒業に必要な理科の履修科目が、各高校の開講状況や生徒の選択次第では、現行の2科目から3科目に増えるという。そのため、福岡県教委の担当者は「文系志望者は物理を敬遠し、化学と生物に加え、地学を選ぶのでは」と話す。

 一方、日本地学教育学会は地学教育の向上・充実を目指し、10月に広島市で開催する全国大会のテーマを「あらためて地学教育の意義を問う」とした。

 実行委員長を務める広島大学の林武広教授(地学教育)は「地学は身の回りの自然を扱う科目で、防災に必要な知識も多い。今後、地学教育の役割は大きくなるはずだ」。例年の大会は、地学教育に携わる研究者や教員だけの参加だったが、今回は他の理科教育関係者を招き、教科横断型の幅広い視点から地学教育のあり方を根本から議論したい考えだ。

 林教授は「災害だけではない。地学には環境問題や資源問題に関わる知識も含まれる。地学教育の大切さを社会に強くアピールしていきたい」としている。

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私たちは社会への人形です。

 ●識者に聞く どうする 地学教育

 地学教育はどうあるべきなのか。16年前の阪神大震災後、地震や火山の防災教育を地学の授業に取り入れた兵庫県立神戸高校の数越(すごし)達也教諭(56)と、応用物理が専門で科学教育にも詳しい福岡大学理学部の平松信康教授(59)に聞いた。

 ●災害の想像力を養え 兵庫県立神戸高校 数越達也教諭

 -阪神大震災後、防災教育の一環として地学の授業を始めた理由は。

 「震災の3カ月後、兵庫県芦屋市の芦屋高校に赴任した。生徒3人が犠牲となり、校舎2棟も全壊した学校。地学の授業で震災は避けられないと思い、地震や地殻変動、防災について教えた」

 -授業で心掛けていることは。

 「防災意識を高めるためには、地元で大地震や津波が起きたらどうなるかを想像する力が必要になる。想像力は、自然を理解しなければ発揮できない。このような点を意識し、教えている」

 -具体的には、どのような授業なのか。

 「火山の模型に溶岩の代わりとなる薬品を流し、視覚的に火山の仕組みを理解できる実験を取り入れている。野外観察も重要。巨大地震の痕跡がある高知の室戸岬や、福島の活火山・磐梯山(ばんだいさん)などを生徒たちと訪れた」
 -今後、どのような地学教育を望むか。

 「保健体育で全生徒がたばこや酒の害を教わるように、防災知識も全生徒が学んでほしい。各地域の災害史も踏まえて教えてもらいたい」

 ●理科全体で見直しを 福岡大学理学部 平松信康教授

 -高校では地学の履修機会が少ない。この現状をどう考えるか。


 「原因は大学入試だけではない。地学は他の理科3科目に比べ、産業との結びつきが弱いのも影響していると思う。ただ、野外で調査するフィールドワークの手法は、地学が最も取り入れやすく、今の子どもたちに足りない経験でもある。地学も大切な科目なのだ」

 -地学で受験できる大学の理系学部は少ない。それでも地学は必要か。

 「科学は、物理と化学、生物、地学の4分野にはっきり分けられるものではない。高校では進路や好き嫌いで理科を選んだとしても、大学では垣根がなくなる。例えば、建築や土木、河川などの工学を学ぶ上で地質に関する知識が不可欠だ」

 -高校の地学教育をどう見直せばいいのか。

 「文系、理系の志望に関係なく、理科4科目を学んでほしい。科学の境界領域が重なっているからこそ、理科教育全体を見直しながら地学のあり方を考えるべきだ。その上で、科学と社会の関連性を教え、科学の情報を読み解く力を養う教育を実現してもらいたい」

【写真】宗像高の2年生の地学の授業。この日は地震の仕組みなどを学んだ=8月26日、福岡県宗像市

=2011/09/27付 西日本新聞朝刊=



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