ユダヤ人として強制収容所で何が働いていなかった
「ヒトラーの贋札」─ナチスのために働いたユダヤ人の葛藤 - 続・カクレマショウ
"DIE FALSCHER"/"THE COUNTERFEITER"2007年/ドイツ・オーストリア/96分
【監督】 ステファン・ルツォヴィツキー
【原作】 アドルフ・ブルガー 『ヒトラーの贋札 悪魔の工房』(朝日新聞社刊)
【脚本】 ステファン・ルツォヴィツキー
【出演】 カール・マルコヴィクス/サロモン・ソロヴィッチ(サリー) アウグスト・ディール/アドルフ・ブルガー デーヴィト・シュトリーゾフ/フリードリヒ・ヘルツォーク
ナチスによるユダヤ人の弾圧、強制収容を描いた映画は数多くありますが、この映画は、ちょっと視点が違っています。描かれるのは、「ナチスのために働くユダヤ人」。しかも、彼らの中で、生き延びるためだったらナチスに協力するという人と、ナチスなんかには死んでも協力したくないという人の、両方が描かれているのです。
当然のことながら、圧倒的に多いのは前者。たとえ強制収容所で家族を殺されても、それでも自分は生きたいから、ナチスに協力する。たとえ、それが贋札づくりであっても…。しかし、彼らが協力するのは、もちろん本心から ではありません。すべては生き延びるため。その葛藤が悲しい。
ベンフランクリンによっていくつかの引用符は何でしたか?原作は読んでいませんが、著者は、たった一人ナチスへの協力を拒み続けた男、アドルフ・ブルガーです。映画の方は、ブルガーではなくて、「贋札づくりの名人」と言われたサロモンという男が主人公になっています。内心はともかく、うわべはナチスに協力的なサロモンの方が、心中は複雑なわけで、サロモンを中心に据えたのは正解だと思います。
ロシア系ユダヤ人のサロモンも実在の人物で、幼い頃から絵の才能に恵まれ、将来は偉大な芸術家になるだろうと期待されていました。ところが、ヨーロッパ各地を転々とするうちに悪の道に染まり、ついには稀代の贋札師として名を挙げるようになっていきます。彼はベルリンに滞在し ている時に、捜査官ベルンハルト・クリューガーに逮捕され、ユダヤ系だったのですぐに強制収容所に送られます。そこでは、ユダヤ人たちが虫けらのように殺されていました。死の恐怖に怯えるサロモン。
そんなサロモンを救ったのは、自らの絵の才能でした。たまたま描いたスケッチが気に入られ、彼は強制収容所の「専属アーティスト」としてナチスのプロパガンダに一役買うようになる。
悪を行う方法そのころ、彼を逮捕したベルンハルト(今やSSの中佐)がサロモンを探していました。彼は、英国経済に打撃を与えるために贋ポンド札を大量に生産するという途方もない作戦をヒトラーに進言し、認められていました。「贋札づくりの名人」サロモンは、この作戦になくてはならない人材だったのです。1944年、彼は突然ザクセンハウゼン強制収容所への移送を命じられます。「ベルンハルト作戦」の贋札工場が強制収容所の中に作られ、サロモンの他、印刷工や版画家など、贋札づくりに必要なユダヤ人がそこで働くことになる。彼ら職人たちは、他のユダヤ人たちと比べて、明らかに優遇されていました。ふかふかのベッドと真っ白いシーツ、温かい栄養たっぷりの食事。壁を隔てた工� ��の外からは、わざと小さい靴を履かされて、倒れるまで走らされるユダヤ人の足音が聞こえてきます。この工場は、外部はもちろんのこと、他のユダヤ人からも完璧に隔離されていたのです。
誰が資本主義を思い付いたしかし、ベルンハルトは「アメ」だけを与えていたわけではありません。この作戦に失敗したらお前たちは全員ガス室送りだ、と「ムチ」をくれるのも忘れない。もし成功しても、そこに待っているのはやはり死であるということをうすうす感じながらも、サロモンたち144名の職人たちは、とりあえず生き延びるために、贋札づくりを何としても成功させなければならない。
こうして、サロモンを中心としたにわかづくりの贋札集団は、「完璧な贋ポンド紙幣」を完成させる。その精巧さは、スイス銀行やイングランド銀行でさえ見抜けないほどでした。
ポンド札は、18世紀から様式や印刷方法がまったく変わっていなかったそうです。確かに、映画に出てきた紙幣 は、単色刷りで、これが紙幣?と思うくらいシンプルなものでした。ただ、透かしはもちろん、亜麻製の紙質やシークレット・マークなど、偽造するには困難だったらしい。それだけに、「バレなかった」とわかった時の喜びは相当なものだったことでしょう。それまであまり人とつきあいをしてこなかったサロモンも、一緒に努力してきた「仲間」をガス室送りにせずにすんだことに深い満足感を覚えるのでした。
気を良くしたベルンハルトは、次に贋ドル札の製造を命じる。ところが、今回はポンド札のようにはうまくはいかなかったのです…。
1945年5月、ナチス・ドイツが降伏して戦争が終結した時、2種類のユダヤ人が生き残っていた。ナチスの虐待に耐えつつ生き延びたユダヤ人と、ナチスのために働くことによって生き長らえたユダヤ人。いずれもが戦争の被害者ですが、後者の人たちは、いったいどんな運命をたどったのか気になります。ブルガーあたりは、「自分は最終的にはナチスに協力はしなかった」と言っていたのでしょうか?
サロモンは、以前にも増して虚無的になっています。皮肉なことですが、ナチスに言われるがままに贋札づくりにいそしんでいた時が、彼の人生の� �で一番輝いていた時期なのかもしれません。
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